聞き手ファーストの朗読が
教えてくれること。

2020.06.05 更新

    朗読で人間性まで変わる!前回伺って衝撃的な言葉でしたが、「聞き手ファースト」という朗読の基本を伺うと「なるほど」と思います。

    ライフスタイルジャーナリストとして活躍する吉野ユリ子さんとのおしゃべり、後編では、朗読の実践についてのアドバイスを伺います。早朝4時に起きてから7時頃まで、幼いお子さんやご家族が熟睡している朝の時間を自分のために使い、ヨガや瞑想をしたり、ブログを書いたり朗読をしたりするそう。忙しい中での時間の使い方も、勉強になります。

    >>前編はこちら。

    好きな作品を選ぶ。まずはそれが大前提です。

    草花木果:実際に朗読のワークショップやクラスに行く前に、自宅でチャレンジしてみたいんですが、そんな時はどんな本を選ぶといいですか?

    吉野さん(以下敬称略):大前提として自分の好きな作品を選ぶことだと思います。私は小説を選ぶことが多いですね。小説だと1つの世界へと離脱できて、その世界の臨場感に入り込めます。現実社会でちょっとイライラしてしまったり、頭が混乱した時などに一度朗読で小説の物語の中に没頭することは、瞑想に近い効果があるようにも感じます。朗読をする時には、その物語の情景を自分の中で映像化しないと、言葉のニュアンスが音に乗せられません。この映像を組み立てる作業が瞑想に近いのかもしれないですね。

    草花木果:やっぱり、読み方でかなり変わるんですよね。

    吉野:そうですね。たとえば朗読教室で「東京でバリバリ働く女性のお母さんが、関西で痴呆になりかかっている」というような内容のお話を扱ったのですが、ある人の朗読を聞いた先生が「その読み方は、あなたが痴呆を、すごく辛いことだと捉えていると、聞く人が感じるかもしれないわね。でもこの主人公は、著者は、どう感じているかしら?」とおっしゃって。
    確かに、「痴呆になったんです」という言葉をどう読むかで、とても悲しいのか、サバサバと現実を受け止めているのか、かなりニュアンスは変わります。「痴呆になったんです!」「痴呆になったんです…」「痴呆になったんです~」読み方ひとつで、変わりますよね。文字だけで伝わりきらない、確定していない要素をどう色付けするか。朗読ならでは、の表現です。ここがとても面白い。

    5分、10分、いえ、1ページだけでもいい。想像力を高める時間です。

    草花木果:確かに。そうやって丁寧に物語を読むと、時間もかかりそうですね。

    吉野:そうなんです。練習もすごく時間がかかり、何十回読んでも満足する読みにはたどりつけませんね。また朗読自体、黙読よりもずっと時間がかかります。文字を追っていない聞き手が音だけで内容を理解し、情景を描くにはそれに必要な時間がかかります。発表会では1人10分という時間をもらいますが、10Pくらいしか読めないですね。

    無理せず、暮らしのリズムの中で、5分とか10分、もしくは1ページだけ、と決めてやってみるのがいいのではないでしょうか? 想像力を巡らせることが必要になるので、心と脳のトレーニングにもとてもいいと思います。ぬいぐるみなどを前に座らせて読んでみるのもいいですよ。自分の朗読を録音して聞いたり、YOUTUBE などで好きな作品の朗読を探すなどもおすすめですね。 そして、もし興味が持てたら、ぜひ良い先生について学んでみてください。グループで習うことで、仲間たちの朗読を聞けることも楽しいし、こんなに違うのか、とか、自分と同じ言葉に対しての価値観やイメージが違って面白い!などの発見がありますし、発表会ではお祭り気分も味わえます。

    草花木果:ありがとうございます。よく知っている作品や好きなストーリーも、朗読することで、新しい発見がありそう。まずは短い作品からトライしてみます!

    「朗読におすすめ」吉野さんチョイス!

    短編の良いお話がたくさん!
    童話のような素敵なお話を紡ぐ梨木さんは吉野さんが大好きな作家さんの一人。

    「丹生都比売(におつひめ)梨木香歩作品集」
    梨木香歩 著・新潮社

    6歳、12歳、18歳、21歳、そして79歳の女性と口紅のエピソード。1編だけ切り取って読んでも楽しい!
    「口紅のとき」
    角田光代 著・上田義彦 写真・求龍堂

    9編の短編集。吉野さんが卒論でも取り上げた 「ほくろの手紙」も収録されているそう。
    「愛する人達」
    川端康成 著・新潮社

    吉野 ゆり子
    今回おしゃべりした方
    吉野 ゆり子さん

    ライフスタイルジャーナリスト/編集/ライター
    雑誌やWEBなどさまざまなメディアで、ライフスタイル全般に対しての発信を続ける。社会の縁までもつかむような鋭い視点と、読者に向けてのやさしい語り口がバランスよく融合する文章が人気。企業からの信頼も厚く、商品開発・コンサルティングなどの仕事も多数行う。4歳の女児の母としても奮闘中。