昨年2019年5月におしゃべりをさせていただいたアンガーマネジメントファシリテーターの西村綾子さん。 この記事がとても好評で、多くの方から反響をいただきました。 思いがけない大きな社会の変化に翻弄された今、改めて「怒り」をコントロールする方法をお聞きしたくて、西村さんにまたお時間をいただきました!
大きな不安や恐れは、怒りを生みやすくします。
草花木果: 1年以上ぶりですが、お久しぶりです!お変わりないでしょうか? コロナ禍でさまざまな変化があって、自分自身もなんだか怒りっぽくなっているかもという気がしていたので、改めてお会いできて嬉しいです。
西村さん(以降敬称略): こんにちは。たくさんの方に記事を読んでいただきありがとうございます。 確かに、大きな不安や恐れが蔓延していると、ちょっとしたことで怒りやすくなってしまう傾向にあります。今はみんなが怒りやすい状態にあると言えますね。
草花木果: 最近、私もなんだか怒りっぽくて。一緒に暮らしているパートナーに「謎に怒っている存在」と思われているかもしれないです(笑)。 ちょっとしたことですぐにイラッとしてしまって。反省もするんですが…。
西村: そうですか。まずはコミュニケーションを密に丁寧にしてみてください。 そもそも人はそれぞれ価値観が違います。どんなに理解しあっている関係でも、それぞれの持っている価値観が異なる部分があるのです。コロナ禍の状況の感じ方も人によって違います。それに加えて、今は新しい常識にも対応せざるを得なくなり、以前と同じ価値観や常識が通用しないケースが増えていますよね。
ですから、相手が自分の価値観や常識とは違うことをしてイラッとした時に「怒っている」ということを伝えるだけでなく、自分がどうして欲しいのか「リクエスト」をこれまで以上に意識して言葉にするようにしてみてください。 ただ怒りをぶつけるだけだと、相手も「うるさい!」と反発したくなったり、「はいはい」とやり過ごそうとしやすくなります。その反応にこちらもまた更にイラッとしてしまったりしますから。
草花木果: なるほど!確かに、もっと関係を深めるためのいいチャンスにできるかもしれないですね。
西村: 急にはうまくいかないかもしれませんが、コミュニケーションは実験だと思って取り組んでみてください。とりあえずやってみましょう! 直接話し合うのが苦手なら、交換日記でもいいんです。今はさまざま変化している時期なので、以前より丁寧なコミュニケーションが必要だと思います。
草花木果: ぜひ、取り入れてみます。ちなみに、この「謎に怒りっぽい」状態を自分自身でもなんとかしたいと思うのですが、何かできることはありますか?
西村: 「怒りが生まれるメカニズム」をガスライターを使って説明してみましょう。 「怒り」を炎だとすると、着火石をこすって「火花」を散らすことが、『べき』が裏切られイラっとした状態に当たります。『べき』とは自分の理想や大事にしている価値観のことで、「外ではマスクをするべき」「会社は仕事ができる環境を整えるべき」などです。私たちは自分の理想(べき)と目の前の現実が違うとイラっとします。このイラっとする、が火花が散った、です。
そして、「燃料」に当たるのが、『マイナスな感情や状態』です。マイナスな感情とは、怖い、心配、悲しい、嫌だ、苦しいなどの感情で、マイナスな状態とは、疲れているとか、生活のリズムが崩れて睡眠不足で眠い、ストレスを感じている、などの状態です。
この仕組みを見るとわかるように、コロナ禍の今は、これまでの常識や普通が通用しなくなり、自分の理想や当たり前とは違うことがたくさん起きています。 つまり火花が散りやすい状態です。 また、先の見えない不安や、コロナに感染したらどうしよう、慣れない生活リズムでクタクタ、と言うように、怒りの燃料を溜め込みやすい状況にもあると言えます。だから、社会全体で怒りが生まれやすい状況にあるのです。
ではどうすればいいのかというと、 「火花」と「燃料」の両方が揃うと「炎」が生まれるのですから、イライラを減らしたいと思うのであれば、両方、あるいはどちらかだけでも減らしてみましょう。
例えば、「マスクはいつも絶対にするべき」を「人が密集する場所ではするべき」というように、自分の「べき」を少し緩めることで火花の散る回数を減らしていけないかな、と考えてみるとか、燃料を溜め込まないように様々なストレス対処法を持っておく、なども有効です。 深呼吸するとかおやつをパクッと食べるとか、のびをするとか、そういう小さいことでもいいと思います。溜め込まない、溜まったらこまめにガス抜きをする、ですね。
草花木果:なるほど!これすごくわかりやすいです。私は、「べき」を緩めるのに少し時間がかかりそうな性格なので(笑)、まずは気分転換をこまめにするように心がけます。
西村:ぜひ!あ、でもお酒はやめてくださいね。依存して増えていきやすいものは避けるようにしてください。
怒りとの付き合い方を考えてみましょう。
草花木果: 誰もが怒りやすくなっているメカニズムはわかりました。とはいえ、怒りっぽい自分に対して嫌だなと思ってしまうんですが、このモヤモヤはどう受け止めたらいいんでしょう?
西村: まずは「今は誰もがイライラしやすく、怒りやすい状況にあるんだ」と認識しましょう。常識も変わっているし、不安もいっぱいある。だから私も怒りっぽくなっているんだなって。そして、「私は何に怒っているんだろう」「何に対して不安を感じているんだろう」と、イライラや不安の要因を考えてみてください。なんとなくイライラ、漠然と不安、だと、対処しにくいんです。 例えば、「自分の大切な時間が無駄になったと感じるのが嫌なんだな」というように、具体的な要因が見えてくると、「じゃあ時間が無駄にならないように動く方法を考えよう」と、何をすればいいかがわかります。こんな風に整理していくんです。
また、自分が怒っても変えられないことは手放しましょう。 例えば「なんでテレワークしなくちゃいけないの」とイラッとする場合に、会社が理由があって決めたことだから変えられないのなら、あなたが怒ったところで状況は変わらないので「快適にテレワークするにはどうしたら」と現実的にできることを探し行動しましょう。もちろん、テレワークだと仕事ができない状況を会社が把握できていない、つまり「怒る(リクエストする)必要がある」と思うならば、具体的に理由を添えて伝えればいいのです。
あと、感情は伝染しやすいことを知っておくといいですね。手軽に発信ができるSNSなどはいい点もたくさんありますが、衝動的な怒りや不安が書き込まれやすいという側面もあります。怒りや不満が書かれた情報を目にすることで、自分もイライラしたり怒りが伝染してしまうことがあります。上手に距離を置くことも無駄にイライラしないためには必要かもしれません。
すべてをオンラインのせいにしないこと。
草花木果: 仕事などがオンライン中心になり、人と直接会わなくなったことで怒りやすくなったりしているということもありますか?
西村: 確かに直接会えずコミュニケーション上不便になったり、新しい仕組みを覚えなければならないストレスが、不安や怒りを生みやすくしている側面はあるかもしれません。けれど、それは必ずしもオンラインだけが原因とは言い切れないと思うんです。 考えていただきたいのは、コロナ前、会社で対面で仕事が出来ていた時に、どんなコミュニケーションをしていたのか、です。
上司が部下を監視する体質や、安心して意見を言いづらい雰囲気などがあったとしたら、オンラインで一人一人の行動が目に見えにくい状況は、より監視が強くなったり、ますます意見が言いづらい状態を生みやすくしてしまうかもしれません。
心的安全性が保たれ、良いコミュニケーションが取れていた会社では、オンラインになっても、それぞれの行動を信頼し、業務上必要なことが出来ていればOK、オンラインのメリットを上手に取り入れてコミュニケーションも上手くいっている、というケースもあります。 ですから、オンラインだから怒りやすくなる、というばかりではないな、という印象です。
また、画面越しだと話がしにくくなった、と感じている方もいらっしゃるかもしれません。「対面のコミュニケーションだったら、本当は言いたかったのに」と思うのであれば、画面越しでも伝えればいい。言いたかったことを言えなかったイライラは、オンラインのせいではありません。本当に伝えたいことなのであれば、チャットでも電話でも伝えればいいのです。それを画面だから出来なかった、とイライラを溜め込むのは健康的ではありませんね。
草花木果: お話を伺って、自分の怒りも含め、何もかも漠然とコロナのせいにしていたような気がするので、しっかりと自分の感情の棚卸しをしたいと思います。そして手放す!以前も一度受講しましたが、またアンガーマネジメントの講習もぜひ受けたいな、と思いました。ありがとうございました。
◇番外編 思い出して何度も怒ってしまう時の対処法は?
西村さんには「思い出し怒り」についても伺いました。 例えば「私が新入社員だった時に上司から怒られたあの一言が今も忘れられない」「彼は去年の私の誕生日も忘れていた」などと、過去の怒りを思い返して再びイラッとしてしまうことってあるのではないでしょうか。実はこれ、その怒りを強く記憶させる行為、なんだそうです。
皆さんも、何かを覚えようとする時に、何度も書いたり、繰り返し読んだり、思い出したりして記憶に定着させようとしますよね?
思い出し怒りも、何度も思い出すことで、その怒りを自分に記憶させ続けることになりかねないとのこと。 思い出しそうになった時には、その瞬間に「楽しいこと」や「嬉しいこと」を思い浮かべて、頭の中の考えるスペースに過去の怒りが入るスペースを与えないようにするのがよいそう。急には思い出せないので、思い出し怒りをしそうになったらこのことを考えよう、と準備しておくといいそうです。