大切なことを大切にする。
松浦弥太郎さんに聞きました。

2018.09.27 更新

    前回に引き続き、エッセイスト松浦弥太郎さんから伺ったお話をご紹介します。
    静かに立ち止まって、自分の日々を見返してみよう。
    前向きに、そんな気持ちになってきます。

    エッセイスト松浦弥太郎さんとのおしゃべり、今回はどうしたら美しくいられるのか、という、女性にとって(いや、人間にとって)とても関心の高い話題です。
    松浦さんに、「とにかくすべて、人間関係も仕事も言葉も、頭だけを使っているとバランスがおかしくなるから、頭とこころを使うことをこころがけて。頭だけを使いがちな時代だからこそ、こころを意識してみて」とも教えていただいたので、特に今回は頭とこころをフル活動しながら、「美」に迫りたいと思います。

    そもそも、美しさとは何なのでしょうか?

    草花木果:「ていねい」とは何か、というお話しに引き続き、美しさについて教えてください。そもそも、美しいとは何なのでしょうか?

    松浦さん(以降、敬称略):僕は、美しさとは弱さやもろさ、はかなさのようなものとリンクしているのではないかと思っています。強くてピカピカしていて、若くて、すべてのバランスが完璧、満たされているものは確かに表面的には美しいけれど、本質的に美しいのかな? こころが惹かれるかな? と考えると、ちょっと違うような気がして。
    僕がこれまでの人生で一番美しいと感じたのは、小学生の頃、夜中にたまたま目覚めて見かけた、泣いている母の姿なんです。
    母は、リビングで本を読みながら泣いていました。感動していたのか、何か悲しいことがあったのか、それは分からなかったけれど、日ごろは強い母が泣く姿を見て、こころから感動して強烈に自分の中に残りました。
    いろいろな美しさがあると思いますが、本当の美しさは、ある種のマイナスイメージを持って語られるような、人間の持っている弱さや悲しみまでもを含めてのことではないのかな、と思います。

    草花木果:なるほど。私たちは、マスメディアなどが創り上げた、特定の「THE美」というものに囚われてしまっているのかもしれないですね。

    松浦:そうですね。人を好きになったり愛するという言葉がありますが、本当に誰かをこころから好きになるときは、スタイルが良いとか顔や性格が良いとかということ以上に、その人の内側にある隠された部分や弱い部分と繋がるということが重要な気がします。
    そんな部分を垣間見たとき、好きになったり愛したりするのではないでしょうか。

    草花木果:そうですね。とても納得できます。では、そういう、自分の内側の深い部分に美しさをかたちづくるためには、どうしたらいいのでしょうか?

    鏡を見る。自分から目を背けないこと。

    松浦:自分の中にある人間らしさのようなものを大事にするということも大事ではないでしょうか。そしてそれは、年齢を重ねれば重ねるほどに大事にすべきことです。
    僕はね、鏡を見るということがとてもいいきっかけの1つになると思うんです。
    元々日本人は鏡を神さまの象徴としていますが、鏡に自分を映す時、そこには先祖も映っています。自分の顔はポッと出てきたわけではなくて、父親も母親も、おじいちゃんもおばあちゃんもそこに在る。自分のルーツも含めてすべてが映ります。

    草花木果:鏡に映る外見に、実はそれまでの全てが映っているわけですね。

    松浦:だからこそ、鏡を見つめ、そこに映るその瞬間の自分を愛して受け入れる。もしも愛せていなかったら、鏡を見るのがとても怖いと思います。
    こんなに歳をとっちゃったとか、肌がキレイじゃないとか、そんなことばかり思ってしまう。でも、目をそらしていてもダメで、今の自分を受け入れることこそ、輝くための基本。僕は、一生懸命鏡を見ることにしていますよ。自分から目を離さないようにして、自分自身を受け入れるようにしています。

    草花木果:つい目を背けてしまいがちですが、それでは自分が自分に愛情を注げないですね…。これからは鏡を見るようにします!
    他にも、松浦さんが日々の暮らしの中で大切にされていることはあるのでしょうか?

    松浦:それ、よく聞かれるので考えたことがあるのですが、「大切なことを大切にする」ということだな、と気づいたんです。
    大切なことを知っていても、意外に大切にできていない。大切なことを大切にする自分。そういう自分でいたいなと思いますし、それは美しさや未来にも繋がると思います。
    最近ね、足を止める、手を止める、など止まることが必要だとよく感じます。それこそ、大切な時には一回止まってみる。止まる知恵もつけていただきたいですね。

    「ながら」をやめてみては、いかがでしょうか?

    草花木果:今は、とにかくすべて、急いで走り続けてしまいがちだし、走っていることすら忘れそうで…

    松浦:僕もなかなかできないんですが、「ながら」をやめてみるということも、おすすめです。テレビを見ながらご飯を食べる、本を読みながら何かをする、音楽を聴きながら掃除をする…。
    そういうことはなるべくせずに、1つのことに集中するようにこころがけます。そうすると、自分の中で気持ちが安らいで、時間の使い方がきちんとして、それが残っていくように思います。
    1つ1つのことにちゃんと向き合えるので、達成感や充実感もあるかな。いつもは無理でも、そういう意識を少しでも持ってみるといいのではないでしょうか。

    草花木果:どうしても時短、時短、と自分を急がせがちでした。早速やってみます!
    また松浦さんにはぜひいいろいろお聞きしたいです。どうぞ引き続きよろしくお願いいたします。

    松浦 弥太郎
    今回おしゃべりした方
    松浦 弥太郎さん

    1965年東京生まれ。エッセイスト、編集者。2005年から15年3月まで、約9年間、創業者大橋鎭子のもとで『暮しの手帖』の編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。現在は(株)おいしい健康・共同CEOに就任。ベストセラーに「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」他多数。NHKラジオ第一「かれんスタイル」のパーソナリティとしても活躍。
    2018年9月14日「1からはじめる」(講談社)、2018年10月20日「考え方の工夫」(朝日新聞出版社)を発刊。