初心を忘れずに、楽しいことを。
松浦弥太郎さんのアドバイス。

2018.12.19 更新

    暦はリズム。自然に向けて自分を開きながらそのリズムの中で暮らしを作っていくことの大切さを教えていただいた前回。もう残りわずかの2018年。エッセイスト松浦弥太郎さんのお話で、今年を締めくくっていきましょう。

    松浦さんは、著書「1からはじめる」(講談社)の中でも語られていますが、いつも初々しくいることが大切だとおっしゃいます。家族のことも、人間関係も、仕事も、今日が初日なんだという気持ちで向かうこと。慣れることはとても怖いことで、常に基本に立ち返り、新鮮な気持ちを持つように。つい忘れがちなことなので、ハッとします。

    常に新しい自分を持っていること。進歩をし続けていること。

    草花木果:松浦さんは、お会いするたびに驚きがあります。先ほど、中国でのお仕事が始まっていると伺って、正直、「松浦さんと中国」がパッと頭の中ですぐに結びつかず、とても新鮮でした。

    松浦弥太郎さん(以降敬称略):僕は、カテゴライズされたり記号化されることを、とても怖いと感じています。知らないうちにポジションが出来てしまうというか…。そうなると、ある時点で消費され尽くしてしまうのではないでしょうか? だから、周りの人たちに常に半分は理解されているけれど、半分は理解されていない新しい自分を常に持っていないと、と思っているんです。別に意外なことをし続けなければいけない、ということではないのですが、進化というか、常に進歩をしていかないと完全に消費されてしまいます。
    だから僕は、初めましてと自分が全然知らない場所、知られていない場所に行って、1から教えてください、と頭を下げるのが好きです。中国での仕事は僕にとって、とても新鮮です。戸惑うことも多いですが、そんな中で自分が何を出来るか、人を喜ばせることが出来るか、とチャレンジすることはワクワクします。

    草花木果:草花木果ブランドも誕生して17年経ちますが、新鮮さを失ってはいけないんですね。

    松浦:そうですね。もちろん自分たちの原理原則を変える必要はないですが、たとえば伊勢神宮でも20年ごとに式年遷宮がある。自分たちが作ってきたものをいったん壊して新しいものにしていくことはとても大切だと思います。お客さまも、やっぱり新しいものは見たい。次はどうなるんだろう、と期待してフォローしたくなるような存在であるべきではないでしょうか?

    草花木果:変化することを恐れず、常に新しくいること、ですね。

    松浦:そう! 変化を求め、それを受け入れる自分であることはとても大切だと思います。

    孤独はいいけれど、孤立はダメ。楽しいことを探しましょう。

    草花木果:松浦さんは、新しい2019年はどんな年にしたいと思っていらっしゃいますか?

    松浦:やっぱり、自分が知らないところに飛び込んでいく変化のある年にしたいです。 ちょっと話がずれますが、人の死亡原因として「孤独」が大きく関わっていることをご存じですか? 僕は、この孤独とは、孤立だと思っています。人間は、物理的な孤独は受け入れられても、孤立はダメ。

    草花木果:なるほど、でも、どうしたら孤立しないのでしょうか?

    松浦:それこそ、自分が知らないところに飛び込んで好奇心を持つ、関心を持つということだと思うんです。 「愛する」とか「愛情」という言葉の反対語を考えた時、憎しみ、と答える人もいますが僕は愛の反対語は無関心だと思っています。人間にとって一番辛いのは、無関心。自分が孤立しないためにいろいろなことに愛を向けることはとても大切です。
    もっと気軽に言えば、いつもいろんなことを楽しんでいればいい。いろんなことを楽しむ努力をすること。もしも時間が経つうちに楽しくなくなったら、別にそれまでの楽しさに固執せずに、次に楽しいことをすればいいと思います。

    出来ないことがあったら、出来るように工夫をすればいいんです。

    松浦:2019年もやりたいことはたくさんありますが1日は24時間しかないし、からだは1つしかない。でも、物理的に自分一人ではできないことがありますが、だからこそ人との関わりが生まれます。助けてもらう。そこにコミュニケーションが生まれる。だから、出来ないことがあっても出来るようにする工夫を考えるようにしたらいいと思います。1人だったらできないけれど、あと2人仲間がいたら出来るかもしれない。出来るようにする工夫を考えていれば仲間も増えるし、自分の好奇心も広がる。そしてさらに楽しくなります。

    草花木果:それは家庭内などでも同じかもしれないですね。

    松浦:どこでも一緒です。出来るようにするにはどうすればいいかを考えるだけです。もしもすぐに答えが出なくても、時間が解決することもあるからそのままにしておけばいいんです。あまりそこは焦らずに…。すぐに解決しないからといって自分を責める必要はありません。無理に問題解決しようとしなくてもいいと思います。
    僕は、2019年は世の中についてもう少し詳しくなりたいし、世界が求めていることや困っていることをもっと見つけていきたいと思っています。幸せって、人が決めてくれるわけじゃないし、自分が幸せと思うか思わないか、です。いつも幸せだな、と思っていたいから、僕は来年も、変化をしながら、自分が楽しいと思えることを、初心を忘れずにとことん楽しんでいきたいと思います。

    草花木果:ありがとうございました。2019年は草花木果も新しい一歩をしっかりと踏み出していきたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。どうぞ良いお年をお迎えくださいませ!

    今回おしゃべりした方
    松浦 弥太郎さん

    1965年東京生まれ。エッセイスト、編集者。2005年から15年3月まで、約9年間、創業者大橋鎭子のもとで『暮しの手帖』の編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。現在は(株)おいしい健康・共同CEOに就任。ベストセラーに「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」他多数。NHKラジオ第一「かれんスタイル」のパーソナリティとしても活躍。
    2018年9月14日「1からはじめる」(講談社)、2018年10月20日「考え方の工夫」(朝日新聞出版社)を発刊。