松浦弥太郎さん、
年末年始に やっておくべきこととは?

2018.12.18 更新

    “草花木果とおしゃべり”のトップバッターとして、以前も登場してくださったエッセイストの松浦弥太郎さん。もっともっと松浦さんのお考えをお聞きしたくて、もう一度お会いするチャンスをいただきました。今回も、やさしくもするどい松浦節で、ピリッと刺激をいただきました。

    年末となり誰もがソワソワ気分、多忙な時期です。こんな時、松浦さんならどんな生活を送るのでしょうか。松浦さんが続ける年末年始の行事のようなものはあるの? 12月ならでは暮らしのコツを、松浦さんにお聞きしたい!

    何が出来て、何が出来なかったのかを必ず振り返ります。

    草花木果:松浦さん、ズバリ、今年の年末年始のご予定は?

    松浦弥太郎さん(以降、敬称略):そもそも、あまり特別なことはしないんです。会社を経営していることもあり普段はなかなかまとまった時間が取れないので、年末年始などで数日空くと、そこは自分の執筆の時間です。基本的には365日仕事をしているような状態。しっかりとお休みをいただいてゆっくり休むということはないかもしれません。
    ただ、新年を迎えるタイミングで、その前の1年を自分が何を目標に過ごしてきて、何が出来て何が出来なかったかは必ず振り返るようにしています。過ごしてきた1年で自分が感謝すべきことなどもしっかりと思い返す。

    そして紙に書き出しますね。書くというのは考えることになりますし、自分自身との約束でもあります。以前もお話しましたが、書くというアウトプットをすることで自分の心の中にその時の思いや気づきがきちんと刻まれます。書かないと、忘れてしまう。
    僕は、仕事上たくさんの人とお会いする機会も多いですし、いろいろな刺激を受ける出来事も多い。だからこそ自分を見失わないようにしないといけないんです。書くことで自分の中にある思いを忘れないようにすることはとても大切なのです。

    草花木果:松浦さんは、いつも確固たるご自身をお持ちように感じるのですが…。自分を見失うような経験もあるのでしょうか?

    手を止める。足を止める。そして、必要のないものは溜めずに捨てること。

    松浦:僕は、頻繁に自分を見失いそうになっていますよ。特に仕事のシーンでは自分以外に自分を合わせていくことが必要なことも多いですし、自分自身の優先度は一番下で常に他を優先しているので、どうしても自分を見失いやすいんです。つい成り行きで物事が進んでしまいそうになったり、嘘ではないですが取りつくろうような態度をとったり言葉を言ってしまいそうな時もあります。そんな時は、手を止める、足を止めるようにしています。

    草花木果:あえて止めるのですか?

    松浦:そうです。たとえば道を曲がる時は、スピードを落とし、止まりますよね。同じことで、大事な時こそ止まるべきで、動き続けるのはよくないと思っています。毎日さまざまなことがたくさん自分の中に入ってきますが、それを溜めっぱなしにするのではなく、止まって、必要ないものを捨てる時間も大切です。

    草花木果:なんとなく、毎日ポジティブに、前向きに動き続けていないとダメなんではないかなんて思って疲れてしまうこともあるので、松浦さんの言葉に救われるような気がします。

    松浦:いったん止まることで、心も落ち着きますし、止まったということだけで安心感にもつながるように思います。止まる、と言っても、それは動きの中での一時停止。日々時間に追われてしまうと、この一時停止をつくれない。こればかりは、自分で意識するしかないですね。

    草花木果:年末年始は、一時停止のタイミングとしてはとってもいい機会になりそうですね。先ほど、過ぎた1年に何が出来て何が出来なかったか、書いておくというお話を伺いましたが、新しい年についても、何か書きとめることはありますか?

    松浦:はい、出来たこと、出来なかったことをしっかり書いて見直したら、次は、新しい年を迎えるにあたって自分が学ぶべきこととか目標、課題、約束などを書くようにしています。

    暦は、暮らしや仕事をしていくための リズムを教えてくれます。

    草花木果:年末年始だけでなく、日本には季節ごとに区切りというか何か考えるタイミングがあるのは、ありがたいことかもしれません。

    松浦:改めて暦は何のためにあるのか、と考えてみましょうか。もともと暦というのは、一般の人が見ることができないもので、昔は神社が「次はこれをしましょう」と人々に伝えていたんです。それが、農業や漁業の発達のためや、多くの人にお参りに来てもらうために、神社が暦を一般にも配布し始めたことなどをきっかけに、皆が暦を知るようになりました。僕は、暦は暮らしや仕事をしていくためのリズムを教えてくれていると思います。

    次に何をすべきか。自分たちで考える手がかりになる。現代社会で、それも都会的な生活に慣れてしまうと、細かい季節の移り変わりに触れることは少なくなってしまっていますが、それでも日本古来の暮らしの知恵が暦には詰まっているわけで、それに触れながら生活するのはとても意味があることだと思います。

    草花木果:暦がリズムを作る、という言葉はとても素敵ですね。

    松浦:つまりそれは外に向かって自分の関心を広げるということ。ここで言う外とは自然です。都会にいると自然がなかなかないですが、それでも太陽の存在は感じられるわけで、おてんとさんを見て季節を感じたり、リズムを知るというのはやっぱり大事です。こういうことに無関心になってしまう時代が来るとしたら、それは残念なことだと思います。

    草花木果:季節の移り変わりを、自分たちの暮らしのリズムに取り入れていけたら、素敵ですね。



    次回は、松浦さんからいただく新年も幸せに生きるためのコツを伺います。ぜひお楽しみに。

    松浦 弥太郎
    今回おしゃべりした方
    松浦 弥太郎さん

    1965年東京生まれ。エッセイスト、編集者。2005年から15年3月まで、約9年間、創業者大橋鎭子のもとで『暮しの手帖』の編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。現在は(株)おいしい健康・共同CEOに就任。ベストセラーに「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」他多数。NHKラジオ第一「かれんスタイル」のパーソナリティとしても活躍。
    2018年9月14日「1からはじめる」(講談社)、2018年10月20日「考え方の工夫」(朝日新聞出版社)を発刊。